【第2話】桐壺、子猫にミルクをあげたいので超高速で曜日別配信を設定します。


「――入口付近に固まらず、中のほどまでお進みください。ドアが閉まります。ご注意ください。」

そのアナウンスと共に乗客を乗せ、電車が動き始めた。ドア前にバッグを抱きしめる小柄な女性が一人。なるべくスペースを取らないよう心がけているが、その女性――桐壺の努力だけでは、すし詰め状態は緩和できなかった。

(こ、これが満員電車というものなのですね・・・)

停車する度に人が乗り込み、奥へ奥へ押し込まれていく。望みの駅で下車するのも一苦労だ。

(先程体調不良となったお客様のアナウンスも聞きましたが、このような環境ですと理解できます。オーバーヒートしちゃいますよ。)

桐壺はぎゅうぎゅうに押し込められながらも、満員電車で通勤する人々の様子を確認していた。スマートフォンでゲームをする者、音楽を聴く者、読書する者。様々だ。桐壺もそれを真似ようと、停車の際にスマートフォンを取り出した。

(よし! ゲームというのをやってみましょう。この『ねこを集めにGO』というゲームが社長のお勧めでしたね。調べたところ社会現象にもなっているといいますし。)

『ねこを集めにGO』というスマートフォンアプリゲームは、世界に100種程存在する猫を集めながら、白猫・三毛猫・トラ猫の3チームに分かれ縄張り争いをするゲームである。縄張り争いに位置情報を利用するため、バーチャル世界をより身近に感じることが可能だ。

(わー、すごい!これが猫さんですか。愛らしい動物ですね。大きな体にふわふわの尻尾。この猫はメインクーンという種ですか。・・・ふむふむ。)

桐壺は通勤までの時間の過ごし方を覚えたのであった。



何とか電車を降り桐壺はようやく駅の外に出た。不慣れな行動のためかぐったりとした様子で、近くのコンビニエンスストアの前まで来ると足を止めた。

(に、人間の生命力はすごいです・・・。)

電車を降り、階段を上り下りして桐壺はようやく外に出られた。あまりの情報の多さにリアルタイム学習機能を二つほどオフにした。桐壺が一息ついている間にも、社会人達が続々と出勤していく。

桐壺は時刻を確認する。

「ここまでは順調ですね。」

現在9時。始業時間は10時。早めに行くとしても、30分程は時間がある。

(この後は喫茶店で時間を潰す予定でしたが、なかなかに面白いんですよねこのゲーム。公園に白猫の縄張りがあるようですし、そちらに行ってみましょうか。)

アプリの画面を見れば、会社の目と鼻の先にある公園に白猫の縄張りとの表示。縄張りに付近に木の葉が舞っている。

「おや。どなたかがマタタビを使ったようですね。」

公園に人影は少ないが、ねこを集めるアイテムであるマタタビを使った形跡があった。

(公園にはどんな猫さんがいるのでしょうか。わくわくするとはこういう感情なのですね。)

スマートフォン片手に公園を見て回る桐壺。すると木陰でしゃがみこんでいる人影を見つけた。茶髪の男性で桐壺と同じくスマートフォンを操作している。側に置かれているリュックサックを見て桐壺はその男性がオペレーターの高橋だと確信した。

「高橋さん、おはようございます」
「!?」

突然のことに高橋は驚き振り向いた。しかし、驚いたのは高橋だけではなかった。

高橋

「へっ?えーと?その生き物は・・・」

「みゃー」と、高橋の腕の中で子猫が鳴いた。真っ白い猫で青い瞳をしている。

(本物の猫・・・?)

高橋は舌打ちしながら、桐壺に問う。

「お前、ここで何をしているんだ?」
「わ、私ですか?この周辺は初めて来たので散策を。えーっと、あとは噂の猫を集めるゲームを」

そう言ってスマートフォンを見せる桐壺。高橋は納得した様子だった。

「もしかして高橋さんも猫を集めているのかな~、なんて声をかけてみましたが、本物の猫さんを抱いているようで。」
「まぁそうだな。」

高橋はそう答え、子猫を手慣れた様子で撫で続ける。子猫はゴロゴロと喉を鳴らし、気持ちよさそうにしている。高橋の意外な一面を目にし、桐壺は優しい気持ちになった。

「この猫さんは高橋さんが飼われているんですか?」
「いいや、違う。こいつは捨て猫か野良猫だ。まだ子供だし、親猫とはぐれてしまったのかもしれない。ミルクを与えるなり安全な場所に連れて行かないと死ぬかもな。」
「親猫さんとはぐれてしまうと死んでしまうんですか?」
「・・・ひょっとして、お前ってとんでもない世間知らずなのか?」
「うっ。そうなのかもしれません・・・」
「生きるためには食事をし、睡眠を取る。だが、この猫はまだ幼くエサを得るための狩りを知らないだろう。親猫にミルクを与えられて成長する段階だ。」
「なるほど。それで、このままでは猫さんは死んでしまうかもしれないと・・・。」
「エサだけならまだいい。問題はこの公園を離れて事故に巻きこまれないかが心配だ。」

高橋はそういいながら、猫を低木の陰に置いて立ち去ってしまう。

「えっ、高橋さん?」
「時間だ」

高橋に言われて確認すると、始業15分前だった。

「ま、まってください~!」

木の下でみゃぁみゃぁ鳴く子猫に後ろ髪を引かれながら、桐壺は高橋の跡を追うように会社へ向かった。



オフィス

これといったトラブルもなく無く、各々仕事に取りかかる及川チーム。部屋にいるのは桐壺とオペレーターだけであった。だが、高橋だけが仕事に身が入らないようで落ち着かない様子であった。

「くそっ・・・。」
(・・・朝の子猫が気にかかっているのでしょうか?)

高橋が苛立ちながら仕事をしているのは、新入りの桐壺が見ても明らかだった。集中できず、業務に支障をきたしているのではないかと桐壺が立ち上がったところで遠藤が話しかけた。

遠藤「ちょっとタッキーどうしたの?さっきから10回は言ってるからねそれ。隣のあたしが言われてるみたいで嫌なんですけど。ストレス?カルシウム不足?牛乳飲む?」

「別になんでもない」

遠藤「いや~。絶対なんかあったでしょ?自覚ないかもしれないけど、君ねぇすぐ態度と顔に出るの。遠藤ちゃんにはわかりますー!」

茶化されるように指摘され、高橋はしぶしぶ書類を遠藤に見せた。

遠藤「・・・あー、転職系求人サイトか。まーこりゃ悩むよね。求人系って激戦区だしさ。桐壺ちゃんもこれ見なよ。」

遠藤に手招かれ、桐壺はAdWordsのレポートを覗き込んだ。

Adwords管理画面

「えーと、こちらは日ごとの集計ですね。先々週と比較してCPAが20%ほど悪化しています。・・・そうですね、クライアントの要望が『今週中にCPAを改善したい』とのこと。となると、急いで手を打たないといけないですね。」
「そんなところだ。」
「こちらの会社のデータと運用実績を見せていただけますか?」

高橋は無言で桐壺に席を譲った。

遠藤「・・・あー、ほんとまいってるんだね。」

「うるさい。簡単に説明すると、ここは社会人向けの総合転職求人サイトだ。先月から運用をはじめ、以前の代理店よりもCPAが改善されたと喜んでもらっていたところなんだがな。」
「では、席をお借りします。」

桐壺はAdWordsの管理画面を開いて一気にスクロールさせ、閉じる。その一連の動作を繰り返し、求人サイト概要や過去の運用実績を確認していく。5分と待たずに全てのデータを読み終えた。

「・・・そんな適当な見方で何がわかるんだ。」
「スキャン完了。そうですね・・・。広告自体は題ないと思います。ただ月曜の午前と、金曜の夜が特にCPAが悪化していますね。」
「!?」

遠藤「んー、ってことはさぁ。あ、社会人の転職だから、月曜の午前ったらメールチェック?金曜日は飲み会――あ、良い線いってない?メールチェックと花金だよ花金!」

「あぁ」
「花金・・・?」

遠藤「げっ!? 花金って死語?」

「死語かどうかといえば死語かもしれないが今も使うだろう。」

遠藤「まぁ、飲み会って言っちゃえば花金とか言わないしね。メールチェックはクライアントから休日に送られて来たものがあるから、それの溜まった分のチェックね。・・・で。花金ってのが『花の金曜日』次の日休みだから皆で飲もう!ってやつよ。お疲れさま~って、楽しむ文化っていうの?」

(なるほど。金曜日の飲み会を指す言葉。楽しむこと・・・。)

桐壺はインターネットで『飲み会』と検索し、個人のブログやコラム、ありとあらゆるデータを収拾し思考を巡らす。――そして、桐壺はふと疑問に感じたことを口にする。

「高橋さん。金曜日の次の日はいつもお休みなんですか?」
「あたりまえだ。俺たちのような会社員は基本・・・!!」

遠藤「あー。あのサイトは不動産業界とかも含まれているから、月曜と金曜だけの調整じゃ済まないかもしれないねー。」

「・・・。」
「高橋さん。ご提案があります。キャンペーンごと、曜日ごとに適切な単価調整を行いましょう。さらに、花金でも残って仕事をしている人向けの訴求を広告文に入れるんです。そうすればきっとCPAは改善されるはずです。」

時間帯配信設定

「これだから素人は困るな。いいか、このサイトは約50個のキャンペーンで運用している。それだけならいい。それらすべての曜日ごとの配信設定を調整するということは50×7で350件の配信設定をするということだ。それだけで丸一日かかる。それだけじゃなく、広告文もなんて・・・。」

遠藤「さすがにそれは2人だとキツいなー。しかも最適な調整割合をキャンペーンごとに導き出すには、データをさらって分析しないと。そんなの2日かけて出来るかどうか。やるとしても今週中に反映するのは無理だねー。」

「くそっ・・・。」

遠藤「あーまた・・・。」

解決方法は見えたが、多くの時間を要することにイラだちを隠せない高橋。

「高橋さん。一度、私に任せていただけませんか?お昼までにはなんとかします。」

遠藤「でた!桐壺ちゃんの必殺技!!」

「しかし・・・。」
「大丈夫。10分程で終わらせます。一刻も早く終わらせて、公園の猫さんにミルクをあげたいです。」
「なっ!」

遠藤「猫さん?」

「あー、わかったわかった。もうどうでもいいから早くしてくれ!」
「はい!」

桐壺は高橋のため子猫のために、大急ぎで隣の部屋へ向かい、ノートパソコンを起動した。そして、自分自身をも起動させる――。

「『artificial intelligence KIRITSUBO』オン。」

桐壺が眼鏡に触れ、言葉を紡ぐと辺りは青白い光に包まれた。光が収まると同時に桐壺の周囲に空中ディスプレイやキーボードが浮かび上がる。――桐壺の瞳も薄緑の輝きを放ち始める。

AI桐壺ON

「システム正常。これより、曜日ごと、キャンペーンごとの運用実績を解析、最適な配信比率をすべてのキャンペーン、曜日に設定します。」



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「設定完了。問題なし。最終判断を高橋さんに任せ、私の作業を終了いたします。」

――桐壺は10分後、高橋にアカウントの確認を依頼した。キャンペーンごと、曜日ごとに過去の実績を基にした、最適な配信割合が設定されていた。高橋が改善案の提出データを揃えたところで昼休みに入った。

「猫さーん、いらっしゃいますかー?」

桐壺と高橋は子猫用ミルクと紙皿を持って公園を訪れていた。

「いない・・・。どこかへいってしまったのか?」
「大丈夫ですよ。きっといますよ。」

不安げな様子で猫を探す高橋を励まし、桐壺たちは白い子猫を探し続ける。

「ん。あれは!」

高橋が砂場に目を向けると、そこには赤い首輪をした白い猫が1匹。その猫の尻尾にじゃれつく子猫の姿があった。

「あっ!高橋さん、あの子じゃないですか?もしかして、あの猫がお母さんでしょうか?」
「・・・ふ。」

桐壺と高橋は、猫たちを驚かせないよう静かに猫を眺めはじめた。親猫に甘噛みしたり、草にじゃれついたりと、自由気ままな子猫。そうこうはしゃいでいるうちに遊び疲れたのか、親猫の側で子猫は丸くなった。親猫は子猫の襟首をくわえ、去って行った。

「いっちゃいましたね・・・。」
「そうだな。」
「でも良かったです。ちゃんと帰るところがあったみたいで。これなら猫さんは元気に生きていけますね!」
「ああ、よかった。これで心配事はなくなったし、ホッとしている。あと、さっきは助かった。猫が心配で仕事に手がつかなかった・・・なんて、言えないからな。」
「いいえ。それは高橋さんが優しいってことだと思いますよ。よく解っていない私にも色々と教えてくれましたし。」
「・・・はぁ。なんだか調子狂うな。お礼といっちゃなんだが、『桐壺ちゃん』飯でも食いに行くか?それかコンビニ弁当を奢ってやってもいいけどな。」
「お、おごり?えーと、漢字は一体どういう字を・・・。」
「おいおい、お前どうやって社会人やってきたんだか。・・・ま、いっか。俺流の昼休みの過ごし方を教えてやるとするか。コンビニ行って、さっさと公園で『猫を集めにGO』するぞ。」
「は、はい!」

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